本書は、タイトルのとおり「誰が勇者を殺したのか」を巡るサスペンス小説です。
「誰が勇者を殺したか」のあらすじ
魔王が人々を脅かす世界に、突如預言者が現れ、勇者の出現を予言しました。
勇者は技を磨き、仲間とともに戦い、ついに魔王を討ち倒します。
しかし、王都への帰還の途中で――勇者は殺されてしまいました。
誰が勇者を殺したか
物語は、勇者が命を落とした後から始まります。
魔王討伐の旅をともにした剣聖レオン、聖人マリア、賢者ソロン。
彼らが勇者を殺したのでしょうか?
それとも、別の誰かが……?
王国の姫・アレクシアが勇者の足跡をたどりながら、物語は真実へと迫っていきます。
読み返したくなるある仕掛け
終盤で「誰が勇者を殺したか」が明らかになりますが、本書には、読み終わった後にもう一度読み返したくなる仕掛けがあります。
今回は、時間がなくて再読できない方や、すでに本を手放してしまい読み返せない方のために、ポイントを絞ってご紹介します。
ここから先はネタバレを含みますので、まだ本書を読んでいない方は、この時点でブラウザを閉じてくださいね!
良いですか?未読の方はいませんね?
これ以降はネタバレありですよ!!
読み返したくなる仕掛けとは

本書には、「勇者」と呼ばれる人物が2人登場します。
預言者によって勇者に選ばれたアレスと、自らの力で勇者の称号を勝ち取ったザックです。
アレスは道半ばで魔族に殺されてしまいますが、ザックは彼の遺志を継ぎ、仲間を集めてついに魔王を討ち倒します。その後、ザックは自らの意思で「勇者は死んだ」とし、自身は身を隠すことを選びました。
本書の前半では、王都の姫・アレクシアが、勇者とともに魔王討伐の旅に出た3人の仲間に話を聞く場面があります。
その後、本書の中盤で、勇者が実はアレスではなくザックであったことが明かされ、さらに「誰が勇者を殺したか」が明らかとなります。
ここで注目したいのが、3人の仲間たちの発言です。 アレクシアが指摘しているように、「あいつ」「彼」と言っている場合はザックを指し、「アレス」と言っている場合はアレスを指していたのです。
この仕掛けを踏まえて読み返すと、物語の印象が大きく変わるかもしれません。
ということで、3人のアレス、ザックに関する発言をまとめ、次にアレクシアを合わせた4人のザックに対する感情を推測してみました。
3人の仲間の発言
それでは3人の仲間の発言を一人ひとり振り返っていきましょう!
剣聖レオンの発言
「あいつは友だったよ」「あいつのことは嫌いだった(省略)視界にすら入れたくなかった」
「誰が勇者を殺したか」レオンの章 より引用
当初、レオンは貴族ではないザックを嫌っていました。
しかし、ザックのひたむきな努力や勇者への強い想い、そして周囲の貴族たちの魔王討伐への無関心を目の当たりにするうちに、次第に彼を友として認めるようになります。
「それがアレスという男の運命だったのだろう。それだけのことだ」
「誰が勇者を殺したか」レオンの章 より引用
レオンがアレクシアに「なぜ勇者は死んだのか?」と問われた際の答え。
レオンはアレスとは会ったことがないため、この答えは当然のものと言えますね。
聖人マリアの発言
「私にとっても彼は勇者でした」
「誰が勇者を殺したか」マリアの章 より引用
マリアがアレクシアに勇者との関係を問われた際の答え。
断章二でマリア自身が語っているように、もともと勇者を信じていなかった彼女は、ザックが回復魔法を使えるようになったという奇跡を目の当たりにし、その瞬間、彼を勇者として認めました。
「アレスのことは好きではない。これは本当のことです」
「誰が勇者を殺したか」マリアの章 より引用
マリアがアレクシアに「アレスのことが好きだったのか?」と問われた際の答え。
「アレスのこと“は”好きではない」という言葉の裏には、ザックへの特別な感情が隠されているのでは?
後に語られるように、勇者の死亡が信じられていた頃、マリアはアレクシアへ執拗に結婚を勧めていました。また、続編『預言者の章』にも関連するエピソードがあり、マリアがザックを想っていたことは間違いないと思います。
「アレスという人間の役割がそういうものだったとしか言いようがありませんね」
「誰が勇者を殺したか」マリアの章 より引用
マリアがアレクシアに「なぜ勇者は死んだのか?」と問われた際の答え。
マリアはアレスに会ったことがないため当然の答えですし、僧侶ならではの答えですね。
賢者ソロンの発言
「あいつは勇者などではない。ただの馬鹿だ」 「(省略)あいつには力も魔力もなかった。勇者足り得る要素など何もなかったのだ。(省略)あいつは勇者なんかやるべきじゃなかった(省略)」
「誰が勇者を殺したか」ソロンの章 より引用
ソロンが、3人の仲間のうちザックについて語る場面が最も多いことから、友人付き合いが苦手な彼にとって、ザックがどれほど大切な存在だったかがわかる言葉です。
「今、俺が弟子を取るようになったのも、あいつのおかげのようなものだ。あれがなければ、俺は死ぬまで他人を馬鹿にして、人に教えることなどしなかっただろう」
「誰が勇者を殺したか」ソロンの章 より引用
「あいつのせい」ではなく「あいつのおかげ」と言っていることから、ソロンはザックに対して感謝の気持ちを抱いていることがわかります。
「(省略)勇者だから魔王を倒せて当然か?あいつがそのために何をしたか、何を犠牲にしたか、わかっているのか?」
「誰が勇者を殺したか」ソロンの章 より引用
ソロンは、「勇者様だ」と崇めるばかりで自らは何も行動しない貴族や民衆に苛立っていました。
ソロンは、ザックが自分の存在を犠牲にし、アレスとして、そして勇者として生き抜き、その使命を全うしたことを知っていました。
発言から推測する○○○への感情

見出しに「ザック」と書いてしまうと目次にも反映されてしまうので伏字にしました。
では、発言から推測するザックへの感情を推測していきましょう!
剣聖レオンの感情
レオンはいい奴ですよね。魔王討伐後の森の中でザックが真実を打ち明けた時も全面バックアップを申し出ていましたし。
聖人マリアの感情
マリアはどう考えてもザックに対してくそでか感情を持ってますね。
それはアレクシアに結婚話が持ち上がった際に、マリアだけは強く結婚を勧めたことからもわかりますし、エピローグの「とあるスイーツの店」での行動からもわかります。
ただ、純粋な「好き」ではなく、少しゆがんだ「好き」な気がします(笑
賢者ソロンの感情
ソロンは口が悪いものの、ザックを心からの親友として認め、さまざまな行動を起こしています。
エピローグで伏線が回収されますが、ソロンはかつてザックの両親に会うため、一人でタリズ村を訪れたことがありました。 しかし、そのときは臆病になり、ザックの母・シェラには会えずに終わっています。 そこで、アレクシアに真相を伝え、今度こそ一緒に会いに行こうと画策していました。
また、旧マリカ国のレティン村までザックを迎えに行ったのも、ソロンとアレクシアです。
ソロンはどうしても、ザックに幸せになってほしかったのだと思います。
王女アレクシアの感情
本書は全体的にアレクシアの視点で進むため、彼女がザックについて直接言及する場面は多くありません。しかし、登場人物との会話や行動から、ザックに対する彼女の感情を推測することができます。
まず、アレクシアとザックは、魔王討伐の旅に出る前に城で約束を交わしていました。
ザックは、アレクシアと「魔王を討伐し、生き残ること」を約束します。 アレクシアは「必ず帰ってくるように」と命じましたが、ザックは「生き残る」と答えました。
また、アレクシアはザックと「好きな人と結婚すること」を約束します。 このやり取りの中で、彼女はザックに惹かれていったのだと思います。
そしてアレクシアは、彼に約束を守らせるため、勇者の偉業をたたえる編纂事業を立ち上げ、ザックを探すことを決意するのです。
まとめ
誰もがザックのことを親友として大切に想っていたことが伝わってきますよね。
今回は触れませんでしたが、勇者の登場を宣言した預言者についても興味深いエピソードがあります。まだ読んでいない方は、ぜひ本書を手に取ってみてください。
すでに読んだ方も、ザックとアレスの関係を踏まえつつ、仲間の発言に注目しながら改めて読み返すと、登場人物たちの心情や考えがより深く見えてくるはずです。
また、預言者に焦点を当てた続編 『誰が勇者を殺したか 預言者の書』 も発売されています。
こちらについても、時間を見つけて感想を書いてみようと思います。
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